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残りの人生カウントしながら生きていくための備忘録です。暮らし・本・雑多なことについて書いています

いまさらだけど、マディソン郡の橋


「恋とは落ちるものだ」とは、すでに古臭いニアンスになっている。

世界的なベストセラーになったこの「マディソン郡の橋」、私は号泣してしまった派。作者が限りなくナルシストなんだなという嫌みな感じはさておき、ロバート・ジェームズ・ウォラーが描写する、主人公のロバートのが好きだ。

彼が好きなものには、skyとblueがある。空の青さも魅力だが、その言葉を口にしたとき、発声するための舌の動き、空気の走りに心奪われるという。

そんな彼は大人になってから写真家になり、アイオワにある屋根付き橋「ローズマン

・ブリッチ」を撮影にしにきた。

フランチェスカは、イタリア人。戦後イタリアに駐屯していた米兵の夫にくっついて、アメリカの田舎へとやってきた。夢みがちな少女もいまではすっかり農夫の妻が板についている。

時代は1965年。牛の品評会に子どもと夫が出かけてしまい、4日間一人で過ごす間のことだった。二人は出会い恋をし、そして別れた。ただそれだけの話し。

フランチェスカは平凡な家庭の妻であり、そういう自分が好きだったのだと思う。戦後という混乱期に、安定した生活を求めて結婚。夫のジムは誠実な農夫だし、子どもたちもいる。

だけど、ずっと見ないにしていた自分の気持ちが、変わり者だけど、自分の孤独を否定しないロバートと出会ってしまったことで、あふれてきてしまったのだった。

「いい妻」「いい母」ではなく、「自分」を見つめた4日間。ロバートは、フランチェスカの丸裸の心と体を全部抱きとめてしまった。

それは、アイオワの田舎で暮らすには、必要のないもの。そうフランチェスカが決めて隠してしまったものだと思う。

しかし、主婦への顔に戻る日が来た時、来た時と同じように、ロバートは一人でアイオワを後にするのだ。

その後、フランチェスカの日々が戻ってくる。年を取り、夫の介護をする彼女に、ある日夫はこんな風に言葉をかけるのだ。

「僕では幸せにできない君の情熱があったんだね」と。朴訥な農夫だと思っていたジムだが、この言葉で、フランチェスカを愛していたのだなと感じる瞬間だ。

だからこそ、彼女はロバートではなく、ジムとの生活を選んだのかもしれない。

夫婦に濃厚な営みもなく、男女がむき出しの愛情もないかもしれないが、長年寄り添って家庭を作ってきた者にしかわからない絆の重さがあるのだと思う。

ロバートもフランチェスカも若くない。きっと容姿にしても、どこにでもいる中年。恋が始まり終わるまでの4日間を、これほど濃厚に書きあげたのは、見事だ。

恋愛で始まった結婚もやがて、その熱が冷めるときがきるのかもしれない。

愛しさはあっても、狂おしさがなく、激しい性はなくても、労りがある。

関係に是非はないけれど、胸に秘めた恋の後始末は、静かでいつまでも心に残るものだった。

 

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